第二章【大切なものと真実】
時雨がいなくなってから半年が過ぎた・・・。
今、俺の脇にはアイツの残したドラゴンがいる。バトルドラゴンのトワイライト、名前は【黄昏】。
黄昏は、静かであまり何かを訴えようとはしないが忠実で戦いではどのドラゴンより先に敵と交戦してねじ伏せる。
まさに、種族の名前通りだ。そして、俺にも少し変化がある。
父が、アーティアのある大陸でも一番戦闘の激しいミースティン要塞へ派遣され俺もそれについていった。
俺は、弓の扱いならスカイハイマーの幹部どもにだって負けない。なぜなら、直接父が仕込んでくれたものだからだ。
まぁ、魔法や剣類はからっきしダメだがな。
でも、それを相棒の黄昏がサポートしてくれる。だから、負けはしない。
ミースティン要塞へ来て暫くたったある日のことだ。
いつもは、戦闘で騒がしいはずなのにその日だけは何の音もしない静まり返っていた。丁度その時だ、父が母のことを話してくれた。
今更聞かされてもどうでもいいと思っていた・・・最初は・・・そう、最初はだ。
~父と母の出会い~
俺は流れの傭兵。どこの国にも縛られない。
そんな時だった、俺が彼女と出会ったのは・・・
何時ものようにシルバークラウンの【蘭界】と共に戦場を駆けていた。
その時、ふと目に着いたのが彼女だった。彼女はスカイハイマーの指揮官だった。
あれは・・・そう、一目惚れだったのかもしれない。
後の話を聞くと彼女も一目惚れだったらしい・・・心から嬉しかった。
まぁ、その戦いが終わってすぐにお互い惹かれあっての結婚にたどり着いた。
俺は、しばらくの間アーティシアにとどまった。彼女が指揮官であったことと子供を欲しいといった彼女のためだった。
久々だった、どこかにふらつかず一か所にとどまるなんて。
その後、いろいろあったが子供もできある程度成長したころにだ・・・悲劇が起きた。
ある夜、俺は彼女に呼び出された。人気のない場所だった。
そこで、彼女は・・・・・自分が追放されし者だということを明かした。
なぜ彼女は俺に明かした?俺が、流れの傭兵でスカイハイマーとは関係ないからか?分からない・・・・。
ただ、分かるのは今すぐ黒狼を連れてここから逃げてくれと言うことだけ・・・訳が分からなかった。
だが、うだうだもしていられない。仕方なく俺は彼女を置いてアーティシアを離れた。そして、また流れの傭兵を再開した。
今、彼女がどこで何をしているのか分からない・・・・。彼女がまだスカイハイマーに居るのか・・・それとも、バイトドラゴンどもを操る者たちの仲間入りしてしまったのか・・・。
分かりはしない・・・・・・。
~回想終了~
父は話終わり煙草に火をつけ始めた。
正直、なんと言っていいか分からない・・・ただ、母が死んだとばかりに思っていたから生きている可能性があるのを知って驚いた。
なぜだろう・・・父の話を聞いてから嫌な予感しかしなくなってしまった。
そう・・・・父が明日死ぬかもしれないと思えてしまった。しかも、愛している母の手で・・・。考えたくない・・・俺は、頭を振りその考えを切り捨てた。でも、嫌な予感だけは止まない・・・。
そのまま時間だけが過ぎ、次の日になった。
その日は、いつもと変わらない。昨日が嵐の前の静けさのように思えるほどに・・・
俺は、黄昏を脇に従え父についていき戦場を駆けた。その時だった、父の足が止まった。
それに合わせて俺は前を見た。綺麗な黒髪の女性がいた。
俺は、目の色は父親譲りで髪は母親譲りらしい・・・そう、俺が見たのはバイトドラゴンを従えた母の姿だった。
父は、悲しげな表情だった。母は、冷たい表情を浮かべていた。
どうして、夫婦が剣を交えなければならないのだろう・・・・俺は、思った。
でも、剣を交えなければならないときがある・・・そうとも思った。
目の前で父と母の戦いが始まった。
俺は、目の前の敵どもを倒すのに必死だった。何しろ数が多い。
暫くしてだった、父のドラゴンの蘭界の絶命する声が聞こえた。
振り返った俺が見たのは、絶命した蘭界、同じく絶命していたスノーネックドラゴンの吹雪、深手を負ったバモーカクの龍楼、トナパシャドウドラゴンの岩掠、スカーレットドラゴンの紅華が母のバイトドラゴンと交戦していた。
父と母を探した。見つけた時には、全身の血の気が引いた。
母の持っていた鎌に胸を貫かれて片膝をつく父がいた。
「子供のおもりで腕がなまったんじゃないの白秦?」
「お前は、容赦がなくなったなジーニャ。」
「私は、昔から容赦はないわ。それに、ちゃんと忠告もした。この戦いに参加しなければ命は取らないと・・・もし、参加したならばこの手で容赦なく手を下すと・・・・。」
「そう・・・だな・・・グフッ・・・だが、黒狼には手を出すな・・・。」
「あの子が、手を出してこない限りわね。」
そう言い終ると母は冷たい目で俺を見てきた。そして、父に重い一撃を与えた。
目の前で父が崩れ落ちる。慌てて近寄った・・・わかってた父はもう死んでることに・・・認めたくなかった。あの数多の戦いを生き抜いてきた父が死んだなんて・・・信じたくはなかった。でも、首筋に触れて脈のないことに気付いた。
俺は、父の首にかけてあるロケットペンダントを取りゆっくりと立ち上がる。そして、母よりも冷たい殺気の帯びた目で母を見つめた。父のペンダントと弓を片手に・・・。
そばにいた黄昏は母のバイトドラゴンと交戦中だ。邪魔する者は誰一人としていない。
「黒狼、その目なに?母を手にかけるの?」
「父にとってはあなたは愛すべき人だった。俺にとっては、目の前にいるのは血の繋がりがあろうとも・・・・・俺の母ではない。」
なぜ、そういったのだろう・・・・良くはわかってはいない。
もしかしたら、バイトドラゴンに操られた母を開放したかったのかもしれない。
そのあとは、よく覚えていないがわかるのは親を手にかけたこと。
母が、その時はリーダーだったらしい。母が倒れると敵が引いていった。
残ったのは父と母と同じように絶命した蘭界、吹雪、龍楼、岩掠、紅華と母のバイトドラゴン。そして、死んだ母の血で赤く染まった俺とバイトドラゴンの返り血で染まった黄昏だった。
それを見た、スカイハイマーの兵はゾッとしたらしい・・・・。
まぁ、そのあとのこと覚えてはいない・・・・。
気づけばアーティシアの近くにある高い山の山頂にいた・・・父のペンダントと母の指輪を手に持って・・・。
そばには、静かに黄昏とSturmritterがいただけだった・・・・
本当は親を手にかけたくはなかった・・・・だが、そうしなければ生き残れなかった。
もう、悲しい思いをするのならば誰とも関わりたくはない。
父と母、父のドラゴンたちは父の大好きな海の見える小高い丘に墓を建てて埋めた。
俺は、冷たくなろう・・・悲しみを覚えるくらいならば母のような無慈悲な人間になろう・・・。
そう思いながら疲れをいやすように深い眠りについた・・・・
これから先、新たなドラゴンとの出会いと困難があるとも知らずに・・・・・